胸が震えました


【お客様の一言に、胸が震えた日】

「もし人生で最後の食事を選べるとしたら、
私はここの熟成魚が食べたいと思いました。」

——その一言をいただいたのは、年に数回しかご家族で外食されないという、とても多忙なお客様からでした。

初めてご来店いただいた夜のこと。
ゆったりとしたカウンター席で、ご家族三人。
その方の目には、やや疲れも感じられましたが、箸を進めるにつれ、表情が和らぎ、笑顔がこぼれていきました。

お出ししたのは、季節の素材を組み込んだコース料理。
中でも、お客様が一番驚かれたのは——熟成魚。
ただ仕入れて捌いたのではない、数日〜十日ほどかけて旨味を引き出した魚の、深く、まろやかな味わいに「これほど違うのか」と唸られていました。

 

「美味しい料理はいろいろ食べてきたけれど、
ここで感じたのは、味だけじゃなくて、“時間”でした。」

そう続けられたお客様。
その一皿の背景にある、「手間」と「想い」と「待つという贅沢」に、心を動かされたのだと仰ってくださいました。

 

料理は、“記憶”に残ります。

どんなに忙しい毎日でも、
ふとした瞬間に「またあの味を食べたいな」と思い出していただけるような、
そんな一皿をつくりたい。

それが、私たち酒縁 青月の願いです。

 

お客様の言葉に、身が引き締まる思いと同時に、
「料理人冥利に尽きる」と、心から思いました。

たった数時間のひとときが、
誰かの「最後に食べたいもの」になる——
そんな奇跡のような瞬間を、また重ねていけるように。

今日も、丁寧に、料理を仕込みます。