10年で初の魚

魚屋さんから電話が来るとき、

私はいつも少し身構えます。

「今日は珍しいものが入りました」

この一言を言ってくれた魚屋さん。
10年付き合っても、この言葉を言わない。

だからこの言葉一つで胸が騒ぎます。

今回は、五島の金目鯛でした。

金目鯛は、よく見かける魚です。
スーパーでも、居酒屋でも。
ただ「五島産」となると、話が変わります。

あの海域の金目鯛は、
水温と潮流の関係で身のきめが細かい。
脂の乗り方が上品で、旨味だけが先に来る。
臭みがなく、皮目も香ばしく仕上がる。
そういう魚です。

金目だけど金目っぽくない

しかも今回は4キロオーバーの特大サイズ。
金目鯛でこのサイズは、
なかなか市場に出てきません。
大きければいいというわけではないですが、
この魚に限ってはサイズと旨味が比例する。
長く生きた分だけ、海の味が凝縮されています。


「なぜ今まで紹介してくれなかったのか」
と聞いたら、こう言われました。

「本当に珍しいから。
入ったと思ったらすぐ取られてしまう。
今日は間に合いましたけどね」

10年間、一度も紹介されなかった魚が、
今うちの店にあります。

こういう食材に出会うたびに思います。
食材の本当の姿を見る機会は、思っているよりずっと少ない。
流通の都合、価格の都合、タイミングの都合 様々なものが重なって、
本物はいつも誰かのところで止まってしまう。

だから私は、こういう話を
皆さんに伝えたくなります。
食べてほしいというより、こういう食材が存在するということを、知っていてほしいから。